2013年10月5日

【エンテツの十日町“田んぼ”見てある記】(その3)

「田んぼはおもしろい」という若井さんは、
小柄で引き締まった身体の身のこなしが軽々していて、
器用そうだしフットワークもよさそうだ。
十日町若井さん9

実際に、田んぼに関連するいろいろな取り組みをしていた、おどろくばかりだ。
増える古民家を利用した「貸民家みらい」。
どぶろく造り免許取得第一号で、どぶろく造り。
完全無農薬の自家栽培大豆での納豆や味噌作り。
これらは、インターネットで販売もしている。
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東京世田谷区の『自然食の健康食卓』のホームページには、
「『自然食の健康食卓』のルーツは、『せたがや棚田倶楽部』にあります。
 10年前、新潟県十日町市松代の若井明夫さんの田んぼをお借りして米作りが始まりました。
 松代は棚田の町です。ブナの森に囲まれた美しいところです。
 どなたでも米作りに参加できますので、ご連絡下さい」とある。
いまや若井さんと世田谷区のつながりは、ずいぶん多方面にわたっているようだ。
泊って農業体験、農業ボランティアというのも定着している。
若井さんはいう。
「都会の人は無農薬で農業体験をしたがるんですよ」
そうだろうなあと思った。
農薬を使用する、いわゆる一般慣行農法は「悪」というわけではないし、
それなりの意義や安全性があって成り立っているが、
都会から出かけて行って体験するとなると、無農薬でやりたいだろう。
それぞれ納得のいく選択をすべきだし、
納得し安心するためにも、選択肢は多いほうがよい。
実際、「自然農法」を謳っても、かなりちがいがある。
さらに若井さんはいう。
「田植えをすると、田植えをしたから草取りもやりたいと足を運んでくれます」
わかるなあ。
そこには、たぶん若井さんにまた会ってみたいという気持ちもあるにちがいない。
十日町若井さん1

また会ってみたいひとがいるから、そこへまた行く。
草取りは難儀な仕事だが、
若井さんに会って、若井さんのように田んぼがおもしろくなるのだろう。
若井さんの取り組みは、大規模効率化の米作りではなしえない、
中山間地農業ならではの生産者と消費者の相互理解や信頼関係を築いているように思えた。
これからの「おいしいお米」「安全・安心」は、こうして育てられるのだろう。
日本一の十日町コシヒカリが育つ土壌には、
「よいひと」が育つ地域の風土や文化があるにちがいない。
それは、白羽毛の樋口さんの田んぼでも感じたことだった。
「おいしい米」「安全・安心」は、
誰かが科学などを駆使してやってくれ保証してくれるのを待って買う、
という姿勢では、すでに偽装問題があるように、必ずしもうまくいかない。
都会の消費者の選択が、ますます大事になっているのだ。
その棚田は、山から湧き出た水を使用していた。
水の量はマスで調整されるが、去年は水が少なくてマス全開でも、
田に水がかぶりきらず、一部で土が露出していた。
若井さんは、ヒョイと田植え機に乗ると、深さの安定しない田んぼのなかで、
田植え機ごと斜めに傾いだりしながら、みるみるうちに田植えを終えた。
十日町若井さん10

暑い盛りには少し農薬を使用するといったが、
水が田んぼに流れ込む口には、大量の蛙のたまごがあって、
孵化したばかりのおたまじゃくしが折り重なって群をなし、
生をよろこびあっているようだった。
十日町若井さん6

エンテツの米の話

遠藤哲夫(えんどう・てつお) 1943年(昭和18)新潟県六日町(現・南魚沼市)生まれ。庶民の快食を追求するフリーライター。通称“エンテツ”。著書に『汁かけめし快食學』『大衆食堂パラダイス』(ちくま文庫)など。現在、ちくま新書より新刊『大衆めし激動の戦後史―「いいモノ」食ってりゃ幸せか?』が発売中。